立地によって集患率や経営の安定性が変わり、クリニックの経営の成功が左右されるためです。
今回は、クリニックを開業する際に押さえておきたい、立地の選び方を解説します。
開業医として満足のいく一歩を踏み出すために、ぜひお役立てください。
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クリニックを開業する際の立地の選び方
それでは、クリニックの開業時に好立地を見極めるためのポイントを見ていきましょう。
ポイント①認知されやすいエリアを選ぶ
クリニックの開業場所を選ぶ際には、「多くの方に認知してもらえるエリアか?」に注目しましょう。
駅前や通勤経路上など、地域住民が日頃から目にする場所にクリニックを開業することで、自院の存在を知ってもらうきっかけをつくれます。
その地域での認知度が高まれば、患者さんが来院する可能性が高まります。
ポイント②需要が供給を上回っているエリアを選ぶ
医療ニーズが高い一方で、クリニックの数が少ないエリアでは、患者さんの来院増加が見込めます。
こうしたエリアは、“受療率”を調べることで把握可能です。
受療率とは、人口10万人に対してどの程度の方が医療機関を受診したのかを示す指標です。
年齢や性別などの項目別の受療率は、厚生労働省がホームページ上で公開している『患者調査』の結果から確認できるため、エリアを選ぶ前に統計表を見ておくとよいでしょう。
その地域の医療面における実態を調べることで、より多くの患者さんを獲得できるエリアを選定できます。
参照元:厚生労働省「令和5年(2023)患者調査の概況 p9-11」
ポイント③競合が少ないエリアを選ぶ
開業場所を選ぶ際には、自院と同じ診療科目のクリニックがないかどうかもチェックしておきましょう。
近隣に競合クリニックがある場合、自院に患者さんがあまり集まらない可能性も少なくありません。
競合の数が少ないほど自院は有利な立場を築けるため、候補地周辺の状況を徹底的にリサーチしてからエリアを決めるのがポイントです。
しかし立地条件の良い場所ほど、競合クリニックも多いと考えられます。
「競合クリニックは多いけれど、このエリアで開業したい!」という場合は、診療内容や技術力、医療設備など、自院ならではの魅力を高めることが経営の成功につながります。
ポイント④クリニックのコンセプトに合うエリアを選ぶ
クリニックの立地は、「自院がどのような診療方針に則って医療を提供するのか」「どの診療科目を得意とするのか」など、コンセプトを踏まえたうえで検討するのも大切です。
たとえば、“気軽に行けるクリニック”というコンセプトを掲げるのであれば、近隣に会社や学校があり、忙しい方でも来院しやすいエリアを選ぶとよいでしょう。
小児科に力を入れるなら、お子さまの多いエリアを探す必要があります。
このような自院のコンセプトをもとに、ターゲットとなる患者さんの特徴や居住地を考えれば、候補地も自然と絞られます。
開業するクリニックの立地を決める前にすべきこと
ここまでご覧になり、クリニックの開業における好立地の条件がおわかりいただけたと思います。
しかし、この条件を理解しているだけでは、良い開業場所を見つけることはできません。
好立地で開業して経営を軌道に乗せるには、ご自身でも条件を満たすために行動する必要があります。
では、具体的にはどのような行動を取ればよいのでしょうか。
エリアを徹底的に調査・分析する
まず挙げられるのは、地域の特性や人口、生活している方の特徴など、クリニックを開業するエリアを徹底的に調査・分析して、情報を整理することです。
資料を見ただけでは得られない情報を収集するためにも、フィールドワークを実施しましょう。
実際に開業したい場所やその周辺の環境だけではなく、住民の生活導線や交通の利便性なども確認できれば、より効果的に理想の立地を探せます。
くわえて地域の方に話を聞くことで、有益な情報を得られる可能性もあります。
調査結果をもとに、年齢分布や世帯構造などを分析し、自院との相性を判断するのがポイントです。
診療圏調査を行う
診療圏調査とは、そのエリアでクリニックを開業した場合、1日にどの程度の来院患者が見込めるかを調べるために行う市場調査です。
1日に見込める来院患者数は“推計患者数”とよばれ、これを把握することは開業場所の将来性を見極めるうえでは欠かせません。
診療圏調査は、基本的に以下の流れで進めます。
診療圏調査の進め方
- クリニックを開業したい候補地を考える
- 来院が見込める患者さんが住んでいる地域の範囲を設定する
- 設定した範囲内にある競合クリニックの数を調べる
- 開業場所へのアクセス状況を確認する
上記のうち、特に重要なのが2つ目のステップにあたる地域の範囲の設定、つまり“診療圏”を仮想することです。
診療圏は、開業したい候補地から直線距離で同心円を描いて設定したり、徒歩や車での移動時間を考慮して定めたりするのが一般的です。
またその範囲は、自院の診療科目に合わせて変更します。
たとえば、緊急時に受診することが多い内科の場合は、住民の居住地に近い、かつクリニックまでの移動時間の短い範囲に設定するのが最適です。
専門性の高い心臓血管外科の場合は、遠方に住む患者さんの来院も見込まれるため、範囲を広く設定します。
クリニックの経営を成功させるためにも、精度の高い診療圏調査を常に徹底しましょう。
近隣の薬局の有無を確認する
クリニックの開業前には、薬局の有無も確認しておきたいところです。
薬を処方する方法には“院内処方”と“院外処方”の2つがありますが、多くのクリニックでは院外処方を採用しています。
院外処方であれば、薬剤師の人件費や調剤関連機器の費用を削減できるうえ、在庫管理の手間もかかりません。
また移動が必要というデメリットはありますが、患者さんにもメリットがあります。
薬剤師から薬に関する詳細な説明を受けられる点や、ジェネリック医薬品への切り替えが容易な点は、患者さんにとって安心材料となるでしょう。
クリニックの開業候補地の近辺に薬局があるかどうかは、運営コストと患者さんの満足度の両面に影響を与えるため、あらかじめ確認しておくことが大切です。
アクセスの良さを考える
アクセスの良さは、来院患者数に直結します。
そのため、「多くの方が無理なく来院できる場所なのか」「どの交通手段がよく利用されている地域なのか」といった事前のリサーチは欠かせません。
たとえば高齢者が多いエリアでは、バスの路線や便数が多い場所、または住宅街にクリニックを開業すると患者さんの負担を減らせます。
また電車の利用が主となるエリアなら駅から徒歩3分圏内の場所で、車がよく利用されるなら幹線道路沿いやショッピングモールの近くで開業するのが望ましいです。
開業前に押さえておきたい!クリニックの物件の種類
クリニックの開業に際しては、立地と同様に、物件にもこだわりたいところです。
クリニック向けの物件は大きく“戸建て”“ビルテナント”“クリニックモール”の3つに分けられ、それぞれに異なる特徴があります。
戸建て
戸建てのクリニックでは、外観のデザインや内装のレイアウトを自由に設計できます。
自院の存在をアピールする視認性の高い看板を設置できるほか、最適な院内導線も実現できるため、ご自身が理想とするクリニックの開業が叶います。
しかし、戸建てのクリニックが完成するまでには、設計や建設工事などのプロセスを踏む必要があるので、候補地を決めてからすぐに開業するのは難しいでしょう。
戸建てでクリニックを開業したい場合は、綿密な計画を立てたうえで準備を進めることが大切です。
ビルテナント
ビルテナントは、オフィスや商業施設といった建物の一部の区画を借りてクリニックを開業する形態です。
人通りが多い、また駅に近いなど好立地の物件が比較的多く、患者さんが来院する可能性が高いのが利点です。
また、戸建てと比べて初期費用を抑えることもできます。
ご自身の予算に合わせて開業できるほか、開業資金を内装・設備などに回せるようになり、最適な医療環境を整えられるでしょう。
ただしビルテナントには、「大家都合により、予期せぬタイミングで退去命令が出される可能性がある」「ほかのテナントによる影響を受ける」といったデメリットもあります。
特に同一の建物内に、クリニックの雰囲気やイメージにそぐわないテナントがある場合、患者さんの来院はあまり見込めません。
クリニックを開業するにあたっては、多くの店や人でにぎわう場所にある建物は避けるのがベターです。
クリニックモール
クリニックモールとは、診療科目の異なるクリニックや調剤薬局、ドラッグストアなどが一つの建物に集まっている医療施設のことです。
クリニックモールの形態は一つではなく、医療専用の建物となっている“医療ビル”や、同一の敷地内に戸建てのクリニックが配置された“医療ビレッジ”などさまざまです。
ただし、いずれも複数の医療機関の連携により患者さんの利便性を高めると同時に、地域医療に貢献している点は共通しています。
そんなクリニックモールでの開業には、「集患がしやすい」「設備投資費を抑えられる」といったメリットがあります。
異なる診療科目のクリニックとの連携が容易な点も、ほかの物件にはないメリットです。
自院では対応が難しい患者さんに対して、専門のクリニックをすぐに紹介できるので、医師としての心理的な負担が減って診療により集中できるようになります。
一方、共有のルールや管理組合の規約に従う必要があり、経営方針が一定縛られる点はデメリットです。
クリニックモールで開業する前には、モール内のルールを調査し、「クリニックを経営するうえで問題が生じないか」をよく吟味しておくと安心です。
クリニックの物件を決める際に注目すべきところは?
クリニック向けの物件の種類がおわかりいただけたところで、最後に実際に物件を決める際のポイントをお伝えします。
クリニックの物件を決める際に注目すべきポイント
- 建物の広さ
- 天井の高さ
- 出入口の広さ
- 電気容量の大きさ
- 段差の有無
診療科目によっては大型の医療機器を扱うこともあるので、適切なスペースが確保できるのかという点は見ておきたいところです。
そして、クリニックには車いすを利用する患者さんや高齢者も来院するため、バリアフリーの環境を整え、誰もが安心して来院できるクリニックを目指すことが理想です。
こうしたポイントを押さえつつ、清潔感と使いやすさを両立できる物件を選びましょう。
クリニックを開業する立地は、認知度の高さや競合の有無などを確認して決めよう
今回は、クリニックを開業する立地の選び方をお伝えしました。
クリニックは、人通りが多い場所や、医療ニーズが高い場所で開業するとよいでしょう。
そのうえで、診療圏調査を実施したり近隣の薬局の有無を確認したりと、調査・分析を進めることも大切です。
またクリニックの開業に際しては、自院に合う物件の選択も重要な鍵を握ります。
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