開業を成功させるには、医療提供者としてだけでなく、経営者としての視点も必要なため、入念に準備しておきたいところです。
そこで本記事では、小児科クリニックの開業に必要な資金をお伝えしたうえで、成功するために押さえておくべきポイントを解説します。
小児科クリニックの経営を成功に導くためにも、ぜひご一読ください。
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小児科クリニックの現状
まずは、厚生労働省が発表した出生数と小児科クリニックの件数の推移から、小児科クリニックを取り巻く現状を見ていきましょう。
出生数の推移
2022年(確定数) | 2023年(確定数) | 2024年(概数) | |
---|---|---|---|
出生者数 | 770,759人 | 727,288人 | 686,061人 |
対前年増減数 | -40,863 | -43,471 | -41,227人 |
小児科を標ぼうする医療施設の件数の推移
2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | |
小児科を標ぼうするクリニック | 18,798か所 | – | – | 17,778か所 |
小児科を標ぼうする一般病院 | 2,523か所 | 2,497か所 | 2,485か所 | 2,456か所 |
上記の通り、出生数は2022~2024年にかけて毎年4万人程度減少、小児科を標ぼうするクリニックと一般病院は2020~2023年のあいだに、計1,087か所減少しています。
これらのデータから、少子化の進行により、小児科を標ぼうする医療施設は採算の確保が難しくなり、閉院や診療縮小を余儀なくされている状況が見て取れます。
こうした現況のなかで小児科クリニックの安定的な経営を実現するには、高品質な医療の提供にくわえて、集患・増患を促す適切な戦略も必要です。
参照元:厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況p1,2」
厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況p1,2」
厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況p4,5,6」
厚生労働省「令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況p1,7」
厚生労働省「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況p1,4,5」
小児科クリニックの開業資金
小児科クリニックの開業に必要な資金は、一般的に3,500万~7,500万円程度といわれています。
その主な内訳は、以下の通りです。
小児科クリニックの開業にかかる費用の内訳
- 不動産費用
- 設計・施工費用
- 医療機器・設備の導入費
- 什器の購入費
- 人件費
- マーケティング費用
- 運転資金
- その他諸経費
上記の通り、小児科クリニックの開業には、不動産費用をはじめとするさまざまな費用がかかります。
なかでも高額になりやすいのは、医療機器・設備の導入費です。
たとえば、血液中の細胞を調べる“全自動血球計数・CRP測定装置”は100万~600万円程度、電子カルテが300万円程度かかるといわれています。
しかし小児科は、脳神経外科や整形外科のように、数千万円規模の医療機器を導入する必要はありません。
さらに、医療機器・設備によってはリースの利用も可能なため、小児科は開業資金を比較的抑えやすい診療科目といえます。
自己資金は多いに越したことはありませんが、上述したように開業資金を抑えやすい診療科目であることから、自己資金が少なくても開業を目指せます。
クリニックの開業資金についてもっと詳しく知りたい方はこちら
関連記事:クリニックの開業に必要な資金はいくら?診療科目ごとに解説
小児科の開業医の平均年収
小児科の開業医の年収がわかる公的な資料は存在しないため、ここでは個人経営のクリニックにおける1年間の損益のデータを参照して収益状況を確認してみましょう。
厚生労働省の「第24回医療経済実態調査」によると、2022年における小児科クリニック(青色申告を含む個人)1施設あたりの収益額は、平均3,949万6,000円でした。
同調査でみられる2022年のクリニック(青色申告を含む個人)全体の1施設あたりの平均損益額は、2,866万7,000円です。
これらは医業収益と介護収益の合計金額から、給与や医薬品などにかかる経費を差し引いた金額です。
なお、損益には開業医自身の報酬(年収)以外に、クリニックの内部資金に充てられる金額も含まれているので、損益額=年収額 とはならない点にご注意ください。
具体的な年収は各クリニックの経営状況によって異なるものの、小児科の平均損益額は、全診療科目の平均よりも高いことがわかります。
また、利益率の面で見ても、小児科は約39.89%、全体平均は31.65%であるため、小児科はほかの診療科目と比べて高い年収を得られる可能性があるといえます。
勤務医の平均年収との比較
小児科の開業医の平均年収を踏まえ、勤務医の平均年収も見ていきましょう。
厚生労働省所管の労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査によると、小児科の勤務医の平均年収は1,078万7,000円でした。
同調査に基づく診療科ごとの平均年収額は、以下の順になります。
診療科ごとの勤務医の平均年収
順位 | 診療科 | 平均年収 |
1位 | 脳神経外科 | 1,480万3,000円 |
2位 | 産科・婦人科 | 1,466万3,000円 |
3位 | 外科 | 1,374万2,000円 |
4位 | 麻酔科 | 1,335万2,000円 |
5位 | 整形外科 | 1,289万9,000円 |
6位 | 呼吸器科・消化器科・循環器科 | 1,267万2,000円 |
7位 | 内科 | 1,247万4,000円 |
8位 | 精神科 | 1,230万2,000円 |
9位 | 小児科 | 1,220万5,000円 |
10位 | 救急科 | 1,215万3,000円 |
11位 | その他 | 1,171万5,000円 |
12位 | 放射線科 | 1,103万3,000円 |
13位 | 眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科 | 1,078万7,000円 |
このなかで、小児科勤務医の平均年収は9位です。
前述のデータと単純に比較することは難しいものの、小児科開業医の平均損益である3,949万6,000円と勤務医の平均年収では2,700万円程度の差があります。
したがって、開業医が勤務医の年収を大きく上回ることが可能であると推察できます。
参照元:労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査p37」
小児科クリニックの開業を成功に導くためのポイント
ここからは、小児科クリニックの開業を成功に導くポイントを、以下の7つに分けて詳しく解説します。
小児科クリニックの開業を成功に導くためのポイント
- ポイント①立地条件を考慮する
- ポイント②内装を工夫する
- ポイント③衛生管理を徹底する
- ポイント④受付から会計までの時間を短縮する
- ポイント⑤集患・マーケティング対策を実施する
- ポイント⑥採用計画を徹底する
- ポイント⑦競合との差別化を図る
クリニック開業までの流れについてはこちらから
関連記事:クリニックを開業するまでの流れと成功させるポイントを解説
ポイント①立地条件を考慮する
小児科クリニックを開業するうえでもっとも重要なポイントが、どこで開業するのかを決める立地選びです。
小児科を開業する際は、以下のような条件を考慮してリサーチしてみましょう。
小児科クリニックを開業するのに適した立地の条件
- アクセスに優れている
- 多くの子育て世帯が周辺地域に住んでいる
- 競合のクリニックが少ない
このなかでも、優先的に抑えておきたい立地条件は自院までのアクセスに優れているのかどうかです。
たとえば、住宅街から離れていたり、主要な駅や道路から離れていたりする場所では、患者さんが来院しにくく、集患を見込めない可能性があります。
また、立地を調べる際は、競合のクリニックの存在もあわせて調べておくことが不可欠です。
すでに競合の小児科クリニックが近隣にある場合、周辺の子育て世帯から“かかりつけ医”として定着しているかもしれません。
子どもの体を理解しているかかりつけ医がいる場合、保護者はクリニックを変更しない傾向があるため、競合の状況を把握せずに開業すると集患が困難となるおそれがあります。
開業に適した立地条件をすべて押さえることは難しいかもしれませんが、念入りにリサーチすることで、収益性が高いクリニックの開業につながります。
ポイント②内装を工夫する
小児科クリニックの開業時は、内装にもこだわることが大切です。
子どもと保護者にとって安心・安全な空間を提供することで自院に対する満足度が高まり、増患につなげられます。
たとえば、木材を基調とした内装は温かみや落ち着きを与え、彩り豊かな内装は子どもを視覚的に楽しませて不安を和らげる効果があります。
また、思いもよらぬ行動で子どもがけがをするリスクを避けるために、床や壁にクッション性がある素材を使用したり、丸みのある什器を置いたりすることなども有効です。
ベビーカーでも問題なく来院できるように段差をなくすほか、付き添いの方もゆっくり過ごせるよう広いスペースを設けることも、満足度の向上に役立ちます。
ポイント③衛生管理を徹底する
衛生管理の徹底も、小児科クリニックの開業を成功させるポイントの一つです。
小児科には、水ぼうそうや感染性胃腸炎、おたふく風邪のような感染症を患った子どもが来院することがあります。
またなかには、好奇心からさまざまなものに触わろうとする子どももいます。
こうしたことが原因で起こる感染リスクを抑えるためにも、小児科クリニックの衛生管理は特に注力しなければなりません。
具体的な対策としては、診察や予防接種など、目的別に待合室を分けることが挙げられます。
スペースの確保が難しい場合は、子ども同士が向かい合わないように、レイアウトを工夫するのも一つの手です。
このほか、院内の定期的なアルコール消毒や、内装に抗菌素材を取り入れるのも効果的です。
ポイント④受付から会計までの時間を短縮する
長い待ち時間は子どもや保護者にストレスを与えるほか、満足度の低下にもつながるため、以下のような対策で、受付から会計までにかかる時間を短くすることも重要です。
受付から会計までの時間を短縮する方法
- 予約システムを導入する
- WEB問診票システムを導入する
- スマホ決済に対応する
予約システムを導入することで、来院してから診察を開始するまでの待ち時間を減らせます。
また、WEB問診票システムを活用すれば、受付後の問診票記入の手間が省け、スムーズな診察が可能となります。
子どもの年齢によっては、問診票を記入するのに時間がかかることも考えられるので、保護者の負担を減らすことができるでしょう。
また、スマホ決済への対応も、待ち時間を減らすのに効果的な対策の一つです。
ポイント⑤集患・マーケティング対策を実施する
小児科クリニックの開業を成功させるには、医療提供のほか、集患対策に注力することも必要です。
小児科クリニックを開業しても、その存在を周辺地域に認知してもらわなければ、経営は成り立ちません。
そのため、看板の設置やホームページの制作は必須といえます。
また、小児科クリニックは一般的に0~15歳の子どもを対象とするので、近隣の小中学校の保健室に出向き、学校や保護者、子どもに自院を知ってもらうことも集患に有効です。
ポイント⑥採用計画を徹底する
適切なスタッフの採用計画を策定・実施することも、小児科クリニックの開業を成功させるのに欠かせないポイントです。
多くの患者さんと関わる受付スタッフや看護師の対応の質が高ければ、再来院につながりやすくなります。
小児科クリニックでは、とりわけ子どもと接することが好きな方は、子どもが安心して接することができ、保護者からの信頼を得られます。
また、保護者の負担を減らすために、ベビーカーや荷物を預かるといった気遣いができるスタッフがいれば、より信用を得やすくなるでしょう。
そのため、小児科クリニックを開業する際の採用活動では、医療提供を円滑に進められるほか、子どもや保護者から信頼されるスタッフを採用するのが適切といえます。
ポイント⑦競合との差別化を図る
開業する立地の周辺に競合の小児科クリニックがある場合は、以下のような差別化で顧客満足度を向上させることにより、集患・増患の拡大を目指せます。
競合クリニックとの差別化を図る方法
- 夜間・救急診療を行う
- 予防接種を行う
- 病児保育の開設
夜間・救急診療を設けることで、日中の受診が難しい場合や、子どもの体調が急激に悪化した場合にも柔軟に対応可能となるため、顧客満足度の向上につながります。
また予防接種の実施は、定期的な収入源となるほか、地域医療への貢献により信頼関係の構築が可能です。
子育て世帯の細かなニーズに応える場合は、“病児保育”の開設を検討してみましょう。
病児保育は、普段は保育園や幼稚園に通っているものの、病気やけがで集団・家庭保育が困難となった子どもを一時的に預かるサービスです。
近年、共働き・ひとり親世帯の増加に伴い需要が高まっていることから、自院の強みとして打ち出すことができます。
小児科クリニックの社会的意義
小児科クリニックには、子どもの未来、ひいては日本の未来を支えるという大きな社会的意義があります。
近年、少子化に伴い、小児科を掲げる医療施設は減少傾向にあります。
また、業務負担の重さから小児科自体を敬遠する医師も多く、人手不足の深刻化も課題として取り沙汰されているのが現状です。
こうした情勢を踏まえ、小児科の存在意義を問う方がいるかもしれませんが、少子社会となった現代でも、小児科クリニックは依然として重要な役割を担っているのが事実です。
周辺地域の身近な存在になりやすい小児科クリニックは、子育てをするうえでの安心材料となります。
また、夜間や休日の診療、救急診療や病児保育を設けたクリニックは、近年増加する共働き・ひとり親世帯のニーズにマッチしています。
勤務体制をはじめとする課題は残るものの、小児科クリニックは、安心して子育てできる環境づくりの礎として、日本社会に貢献している診療科目なのです。
小児科クリニックの開業は年収の増加だけではなく、社会貢献にもつながる
今回は、小児科クリニックの開業に必要な資金と、成功に導くポイントを解説しました。
小児科クリニックの開業を成功させるには、立地の入念なリサーチのほか、安心・安全な内装や、適切な人材採用にも注力しなければなりません。
小児科クリニックは少子社会のなかであっても、地域の子育てを支える重要な役割を果たしています。
ニーズに即した小児科を開業すれば、勤務医として働くよりも年収が高くなることにくわえ、社会貢献にもつなげられます。
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