クリニックの開業を成功させるためには、正しい知識をもとに、余裕をもって準備することが大切です。
そこで本記事では、整形外科の開業までの準備事項や資金の調達方法を解説します。
これから開業を目指す方が、安定した経営基盤を築くためのヒントも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
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整形外科の開業に必要な準備
ここでは、整形外科クリニックを開業するまでに必要な準備を解説します。
主な準備事項は、以下の通りです。
整形外科の開業に必要な準備
- クリニックの理念や診療領域の明確化
- 事業計画の作成
- 開業形態や開業地の選定
- 開業資金の調達
- 内装工事業者への依頼・施工
- 医療機器の手配
- 医療スタッフの採用
- 行政機関での手続き
なお、整形外科クリニックの開業準備には1年以上かかるとされているため、余裕のあるスケジュールで準備を進められるよう、適切な開業時期を設定しましょう。
クリニックの理念や診療領域の明確化
まずは、クリニックの理念や診療領域、対象とする患者層を整理します。
この軸が定まれば、開業地や医療機器などの選定をスムーズに進められます。
ご自身のクリニックを開業する動機や、誰にどのような診療を提供したいのかを明確化することが大切です。
事業計画の作成
クリニックの理念や診療領域を踏まえ、開業に必要な資金の目安やその調達方法、開業後の収支計画などを立案します。
詳しくは後述しますが、内装工事費や広告宣伝費を含め、クリニックの開業には高額な資金が必要です。
ご自身の想定する診療内容や開業形態に応じて、必要な開業資金やその調達方法を検討しましょう。
そのうえで、初期投資した資金をどのように回収するのかをシミュレーションします。
開業後の収支計画を立てる際は、一日当たりの平均来院患者数と平均診療単価、年間診療日を仮定して、診療報酬のおおよその金額を計算してください。
そして診療報酬から医療材料費や人件費などを差し引き、具体的な収支を算出します。
開業形態や開業地の選定
クリニックの理念や対象とする患者層に合わせて、開業形態や開業地を検討することも必要です。
開業形態には、大きく分けて戸建てとテナントの2種類があります。
戸建ての場合、間取りの自由度が高く、改修や改築も可能となるのが利点です。
しかし建物の維持費用や固定資産税がかかるため、テナントよりもランニングコストが高くなる傾向にあります。
一方、ビル内のテナントを借りる場合、不動産関連の初期費用を抑えられるうえ、開業までの期間も短くなります。
テナントの選定時には、駅前や商業施設などの人が多く集まる場所を選ぶと、集患率の向上が見込めるでしょう。
さらに整形外科の場合は、長時間の移動や歩行自体が困難な患者さんも来院するため、アクセスの良さやエレベーターの有無などの確認が必須です。
クリニック開業の立地の選び方について詳しく知りたい方はこちら
関連記事:クリニックを開業する際の立地はどのように選べばよい?
開業資金の調達
クリニックの開業にかかる資金の調達方法も考えておきましょう。
開業資金を自己資金のみで賄うケースは少なく、金融機関からの融資を受けるのが一般的です。
融資を受ける場合、審査の結果が出るまでにある程度の時間を要します。
初期費用の支払いを考慮し、遅くとも開業予定日の半年前までには融資を確定させるよう、計画的に準備を進める必要があります。
くわえて、融資を受ける際は事業計画書の提出や自己資金の用意が求められるため、融資の条件を事前に調べておくことが大切です。
内装工事業者への依頼・施工
物件を契約できたら、専門業者に内装工事を依頼します。
整形外科クリニックの場合、車椅子や松葉づえを使用する患者さんも来院するため、バリアフリーに設計するのが一般的です。
患者さんの目線で、手すりの位置や段差などを調整し、安心して利用できる環境に整えましょう。
なお、内装は医療法や建築基準法に準拠する必要があるため、クリニックの開業支援サービスを利用し、担当者からアドバイスを受けると安心です。
医療機器の手配
診療に必要な医療機器は、事前に使用方法の確認や動作チェックを行うため、開業予定日の1か月前までには調達しておきましょう。
早い段階から必要な医療機器をリサーチしておき、見積もりを取っておくとスムーズに導入できます。
医療機器を選定する際は、どの診療科においても必須の電子カルテをはじめ、診察用ベッドやX線撮影装置など、診療内容に合わせて必要な設備を購入してください。
なお、初期費用を抑えるためには、必要最低限の機器のみを揃えて、精密検査はほかの医療機関と連携する方法もあります。
医療スタッフの採用
整形外科クリニックを開業する場合、看護師や受付にくわえて、診療内容によっては理学療法士や作業療法士の雇用も必要となります。
適任者がなかなか見つからない可能性もあるため、開業予定日の半年前には採用活動を始めるとよいでしょう。
この際、ホームページで情報を掲載するだけでなく、求人サイトも活用すると、採用活動をより効率的に進められます。
行政機関での手続き
個人でクリニックを開業する場合は、行政機関からの許認可が必要です。
まず開業から10日以内に、管轄の保健所で診療所開設届を提出してください。
この際、医師免許証や敷地周辺の見取り図、賃貸借契約書の写しなどの提出が求められるため、不備なく揃えて持参しましょう。
また、保険診療を行う場合は、管轄の地方厚生局に保険医療機関指定申請書を提出することが義務づけられています。
この書類は受理されるまでに1か月程度かかるため、提出期限を確認し、早めに準備しておくことが大切です。
そのほか、X線装置を使用する場合や労働災害の患者さんを診察する場合など、診療内容に応じて必要な手続きが異なるため、事前に確認しておく必要があります。
整形外科の開業に必要な資金
整形外科クリニックの開業には、当面の運転資金も含めて1億円以上かかるのが一般的です。
主な資金の内訳は、以下の通りです。
整形外科の開業に必要な資金の内訳
- 不動産関連の費用
- 内装工事費
- 医療機器の導入費
- 診察室・待合室の備品費
- ITシステムの導入費(電子カルテ・予約システムなど)
- 広告宣伝費(ホームページ制作・看板設置など)
- スタッフの採用・研修費
- 医師会や関連団体への加入費
- 当面の運転資金(スタッフの給与・水道光熱費など)
当面の運転資金に関しては、経営が安定するまでに数か月程度かかることを想定し、2,500万~4,000万円程度を用意しておくとよいでしょう。
なお、クリニックの診療内容や開業形態によって必要な資金は異なります。
特にリハビリテーションに注力する場合、十分な設備とスペースを確保する必要があることから、初期費用がかさむ傾向にあります。
そのため、市場調査を入念に行い、ご自身の予算に合わせて診療内容や開業形態を検討することが重要です。
整形外科の開業資金を調達する方法
整形外科クリニックの開業に必要な資金がわかったところで、本項では資金を調達する方法を紹介します。
整形外科の開業には高額な資金が必要となるため、総額の1~2割程度を自己資金で賄い、残りは融資を受けるのが一般的です。
融資を受ける場合は、以下の4つの方法があります。
整形外科の開業資金を調達する方法
- 方法①日本政策金融公庫の融資
- 方法②医師信用組合の融資
- 方法③民間の金融機関の融資
- 方法④福祉医療機構の融資
方法①日本政策金融公庫の融資
日本政策金融公庫は政府系の金融機関の一つで、比較的低金利で融資を受けられるのが特徴です。
実務経験や個人の信用性に問題がなければ、融資を受けたことがない、または自己資金が少ない方でも利用できる可能性があります。
なかでも“新規開業・スタートアップ支援資金”は、保証人や担保の有無について柔軟に対応してもらえるのがメリットです。
そのため、クリニックの開業を目指す方にとって、利用のハードルが低い融資制度といえます。
方法②医師信用組合の融資
各地に設置されている一部の医師信用組合では、その地域でクリニックを開業する組合員に対し、“新規開業ローン”を提供しています。
ローンの使い道や限度額などは地域ごとに定められており、組合員であれば、有利な条件で融資を受けられる可能性があります。
ただし、融資を利用するためには開業する地域の医師会に入会したうえで、医師信用組合への加入が求められる場合があるため、条件を確認しておきましょう。
方法③民間の金融機関の融資
銀行をはじめとする、民間の金融機関で融資を受けるのもおすすめです。
金融機関によって金利や保証人の有無などの条件が異なるため、ご自身の希望に沿うプランを選びましょう。
なお、地域の活性化を推進する地方銀行のなかには、融資を受けたクリニックに対し、開業のサポートやスタッフへの研修を提供している場合があります。
そのため、地方で開業する場合は地方銀行から融資を受けるのも一つの手です。
方法④福祉医療機構の融資
福祉医療機構は、社会福祉法人や医療機関を対象に資金の貸付事業を行う独立行政法人です。
医療機器の購入に必要な資金を借りることができ、限度額や期間は、融資の対象ごとに決められています。
なお、福祉医療機構の融資は、指定エリア内で開業する場合のみ利用できるため、クリニックの開業地が条件に合うかどうかを事前に確認しておきましょう。
整形外科の開業医の平均年収
ここからは、整形外科の開業医となった場合の平均損益差額から、年収の目安を見ていきます。
厚生労働省が実施した「第24回医療経済実態調査」のデータによると、2022年度における整形外科クリニック(青色申告者を含む)の平均損益差額は、約2,300万円でした。
なお、個人でクリニックを開業する場合は、上記の損益差額から税金や社会保険料、人件費、設備の維持費などをご自身で負担する必要があります。
そのため、実際の年収は損益差額よりも低くなることが見込まれます。
整形外科の開業を成功させるポイント
最後に、整形外科クリニックの開業で押さえておきたいポイントを解説します。
以下の6つの要点を意識することで、クリニックの安定した経営にもつながります。
整形外科の開業を成功させるポイント
- ポイント①クリニックの理念を明確化する
- ポイント②最適な立地を選定する
- ポイント③リハビリテーションを充実させる
- ポイント④集患施策を実践する
- ポイント⑤スタッフの採用と育成に注力する
- ポイント⑥地域の医療機関と連携する
ポイント①クリニックの理念を明確化する
整形外科クリニックでは、幅広い患者層を対象に診療を行うため、明確な理念を軸に診療内容を決めることが重要です。
たとえば高齢者向けの診療を行う場合、骨密度検査機器を導入すると、骨粗しょう症を予防できるクリニックとして他院との差別化を図れます。
反対に若年者が対象の場合、スポーツ整形外科や美容系の診療に注力すると、その分野に精通しているクリニックとして信頼度を高められるでしょう。
ポイント②最適な立地を選定する
クリニックを開業する際は、患者さんが負担なく通院できる場所を選ぶことが大切です。
地域住民の交通手段をリサーチしたうえで、それに合った立地を選びましょう。
たとえば、公共交通機関の利用が多ければ駅からのアクセスを重視し、車の利用が多ければ駐車場の有無を確認してください。
なお、開業場所にお悩みの医師の方には、医療モールでの開業がおすすめです。
医療モールとは、複数の診療科のクリニックが集まっている医療施設のことです。
立地選定には綿密な調査が行われており、一般的に集患率の高いエリアが選ばれます。
なかでも駅ビルやショッピングモールに入っている場合は、通勤時や買い物帰りの患者さんが気軽に立ち寄れるため、高い集患率が期待できます。
ポイント③リハビリテーションを充実させる
患者さんの高齢化を見込み、リハビリテーションの充実化を図ることで安定的な経営につながります。
昨今、国の方針により、要介護者向けの一部の医療サービスで、医療保険から介護保険に移行する動きが進んでいます。
特に、高齢者を対象とした通所リハビリテーション(デイケア)は、介護保険下で提供可能なサービスの一つとして注目されているのです。
そのため、理学療法士によるリハビリテーションを充実させることで、医療と介護の両面から地域のニーズに応えることができます。
結果として、クリニックの需要が高まり、長期的に安定した経営に結びつくでしょう。
ポイント④集患施策を実践する
クリニックの開業を周知し、多くの患者さんに選ばれるための施策を立案・実行することもポイントの一つです。
インターネットで情報を収集する患者さんに対しては、ホームページやSNSを使用してクリニックの開業日時やアクセス情報をわかりやすく伝えます。
さらにオンラインの予約システムを確立すると、診療時間外でも予約を受けられるようになり、患者さんにとっても利便性が向上します。
開業後はホームページの情報を定期的に更新し、患者さんの暮らしに役立つコンテンツを発信することが重要です。
オフラインでの集患施策としては、看板の設置や地域の情報誌への掲載などで、地域住民に周知を図る方法が有効です。
くわえて、開業前や直後に内覧会を実施すると、クリニックの設備やスタッフの雰囲気を知ってもらえるため、その後の受診につながる可能性があります。
ポイント⑤スタッフの採用と育成に注力する
患者さんの満足度を高めるためには、スタッフのコミュニケーション能力や臨機応変な対応力が欠かせません。
各スタッフの採用後には研修の機会を設け、患者さんに治療方針をわかりやすく説明できる能力を身につけてもらいましょう。
特に整形外科では、診療内容に応じて理学療法士や作業療法士、放射線技師など、多職種のスタッフが必要となります。
スタッフ一人ひとりが自身の能力を十分に発揮できるよう、スタッフ同士の明確な役割分担や、良好な人間関係の構築を促すこともポイントです。
ポイント⑥地域の医療機関と連携する
同じ地域のクリニックやリハビリ施設と連携し、相互に患者さんを紹介できる体制を整えておくと、集患のルートを広げられます。
たとえば、ほかの診療科のクリニックから患者さんの紹介を受ける、またリハビリ施設や介護施設の入所者の診療を行うことが可能になります。
また最低限の医療機器のみを準備して開業する場合は、ほかの医療機関で精密検査を受けてもらう必要があるため、他院との連携体制を整えておくことが重要です。
整形外科の開業にはクリニックの理念の明確化と最適な立地選びが重要
整形外科クリニックの開業には、内装工事費や広告宣伝費などで1億円以上の資金が必要となるため、自己資金で賄えない分は融資を受けるのが一般的です。
開業に際しては、まずクリニックの理念と診療領域を整理し、患者さんが負担なく来院できる場所を選定します。
物件を契約できたら内装工事を手配し、診療内容に応じて必要な医療機器を導入しましょう。
また、スタッフの採用活動も早めに着手しておくことが大切です。
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