その際、開業医になることで実現可能な働き方を事前に把握できれば、新しい一歩を踏み出すための後押しとなるかもしれません。
そこで本記事では、開業医だからこそ感じられるやりがいや、勤務医と比較したうえでのメリット・デメリットなどを解説します。
開業医の実情を把握したい方は、ぜひご覧ください。
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開業医とは
開業医とは、自身で経営する病院や診療所を持つ医師のことです。
医師であると同時に経営者でもあるため、医学的な知識だけではなく経営や資金繰り、また人員管理などに関するノウハウが必要となります。
そのように聞くと大変に思えますが、一方で診療時間や治療の方針などは自身で決められるため、比較的自由に働くことが可能です。
なお、開業医の働き方には“新規開業”と“継承開業”の2種類が存在します。
新規開業は、診療科目と開業エリアを自身で選んで開業するケースです。
対して継承開業では、親族や第三者から引き継いだ病院・診療所を経営します。
開業医のやりがい
同じ“医師”ではありますが、勤務医とはまた違ったやりがいが開業医には存在します。
その詳細を、医療・組織づくり・生活の3つの観点から見ていきましょう。
医療
医療面においては、自身の定めた方針で患者さんを診療できる、という点が大きなやりがいだといえるでしょう。
特定の病院や法人に勤めている勤務医は、当然、その勤め先が定めた方針に従い診療を行わなくてはなりません。
しかし開業医なら、患者さんへの接し方から治療方針まですべて自身で決められます。
くわえて、診療に用いる機器や薬品も自由に選定可能なので、自身が理想とする診療体制を実現できます。
組織づくり
医療面と同様のことが、組織づくりの観点にもいえます。
採用するスタッフに求める経歴やスキル、またその人数なども、開業医なら自身の責任の範囲で自由に決定可能です。
さらに、採用したスタッフの配置や評価も決められるため、理想とする組織づくりが叶います。
生活
先ほども少し触れた通り、開業医は病院の診療時間や休診日などを、すべて裁量で決められます。
仕事の時間とプライベートの時間を好きなように調整できるので、自身のライフスタイルを大切にしたい方にとっては、大きなやりがいとなるはずです。
もちろん、勤務医でも有給休暇を利用すれば、ある程度は自分の時間を確保できます。
しかし、基本的には勤務先の診療時間に合わせて生活することになるため、開業医ほどの自由は感じられないでしょう。
開業医と勤務医の平均年収
開業医を目指すにあたって、やはり勤務医との年収の差は気になるところです。
以下にそれぞれの年収を整理したので、比較していきましょう。
開業医
厚生労働省の資料によると、開業医の平均年収は2,500万円前後とされています。
ただし、手取りの額はここから大きく下がる傾向にあります。
なぜなら、病院の設備費やスタッフの給与などは、この年収のなかから捻出しなくてはならないためです。結果として、手取り額の平均は1,600万円前後となります。
また開業医の給料は、その診療科目や病院の所在地によっても変動します。
まず、診療科目ごとの年収の目安が以下の通りです。
診療科目ごとの平均年収
診療科目 | 平均年収 |
内科 | 約2,800万円 |
小児科 | 約4,180万円 |
精神科 | 約2,170万円 |
外科 | 約2,960万円 |
整形外科 | 約2,790万円 |
産婦人科 | 約4,890万円 |
眼科 | 約3,390万円 |
耳鼻咽喉科 | 約2,960万円 |
皮膚科 | 約2,790万円 |
小児科と産婦人科の年収が4,000万円を超えており、ほかの診療科目と比べて頭一つ高いことがわかります。
このような結果となる理由としてはさまざまな要因が考えられますが、特に産婦人科に関しては、治療費が比較的高いことが主要因として挙げられます。
次に、所在地の違いによる影響についてです。
基本的に、首都圏よりも地方で働く開業医のほうが年収は高い傾向にあります。
地方は競合が少ないため、宣伝に力を入れずとも患者さんが来てくれる、というのが大きな理由であると推察されます。
首都圏の開業医の年収が低いことは、上記と真逆の状況であることを考慮すれば説明がつくでしょう。
参照元:第24回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告(149~151ページ)
関連記事:皮膚科の開業医の平均年収は?成功するためのポイントも解説
勤務医
勤務医の平均年収は1,400万~1,500万円程度で、手取りであれば850万~1,050万円ほどとなります。
年収ベースだと開業医と比較して低く思えるかもしれませんが、手取り額の差はそこまで大きくないことがわかります。
開業医になるメリット
開業医になることで得られるメリットを、ここからさらに深掘りしていきましょう。
主なメリットとしては、以下の4つが挙げられます。
メリット①収入が増える可能性がある
すでにご説明した通り、開業医は勤務医と比べて年収が高い傾向にあります。
診療科目や病院の所在地次第では、収入を大幅に増やすことも可能でしょう。
ただし開業医になると、勤務医のときには発生しなかった支出、たとえば施設の維持費やスタッフの給料なども発生する、ということは忘れてはなりません。
収支管理も複雑になるため、その点を加味したうえで開業医になるかどうかを判断したいところです。
メリット②働き方を自身で選べる
開業医であれば診療の方針を自身で決められるため、理想とする働き方を実現できます。
特に「特定の分野の研究に特化したい」「専門分野のスキルを伸ばしたい」といった考えがある方は、開業医として自由に働くのが理想的だといえます。
また、ワークライフバランスを重視したい場合にも、診療時間や休診日を自由に決められる開業医が最適です。
メリット③運営方針を決められる
自身の働き方だけではなく、病院・診療所の運営方針を自由に決められるのも、開業医ならではの利点です。
地域に根づいた診療体制を構築するのか、あるいはスポーツや美容といった、特定の層に特化した診療を提供するのかなど、自身の考えに基づいた方針を定められます。
運営方針が確固たるものであれば患者さんの満足度も自然と高まるため、必然的に収益の向上も叶います。
メリット④採用活動を主導できる
経営者である開業医には、もちろん採用活動における裁量も備わっています。
つまり「この人となら不和なく働けるだろう」と思うスタッフを、優先的に採用できるのです。
質の高い診療体制を整えるためには、まず職場の人間関係を良好にしなくてはなりません。
その観点でも、自身の方針に理解を示すスタッフを集められることは、大きなメリットとなりうるでしょう。
開業医になるデメリット
良い側面ばかり見ていると、開業医として実際に働き始めたあとに「思っていた働き方と違う……」と後悔してしまうかもしれません。
開業医になるかどうかを決める際は、デメリットもきちんと把握することが大切です。
デメリット①収入が不安定になる可能性がある
年収が上がる可能性はあるものの、月々の収入は不安定になるというリスクも存在する点が、開業医になることのデメリットの一つです。
特に開業直後では、近隣住民に存在が認知されておらず、患者さんが来ない期間が続くことが考えられます。
また、なんらかの事情で自身が働けなくなり収入が途絶えてしまう、ということも起こりえます。
年収の高さよりも安定性を優先したいのであれば、勤務医として働くほうがよいでしょう。
患者さんが来ない時の対応策を紹介した記事もあるため、ぜひ合わせてご覧ください。
関連記事:開業医になったけど患者さんが来ない?理由と対策方法を解説
デメリット②伴う責任が大きくなる
開業医として患者さんを治療する際、その責任は基本的に自身がすべて負う必要があります。
一方で勤務医は、複数人で医療行為にあたることがほとんどで、経営者や上司にも責任が伴います。
この責任範囲の差は、開業医を目指すにあたって無視できない部分でしょう。
また、開業医には経営者としての責任ものしかかります。
病院・診療所が倒産するリスク、また雇っているスタッフに対する責任なども負う、ということを自覚しなくてはなりません。
デメリット③業務が増える
開業医になれば、病院運営に関するさまざまなことを自身で決められると説明しましたが、これは裏を返せば、それだけ業務が増えることも意味しています。
特にスタッフがいない、あるいは少ない小規模な病院では、開業医自身が以下の業務をこなさなければなりません。
開業医の業務の一例
- 経営に関する資料の作成
- ホームページの運営
- Webや紙面広告の出稿
- 小口現金管理
- 請求書支払いや領収書管理
- スタッフの勤怠管理
- 給与管理
- 人事評価や面談
- 法務関係の手続き
- 保健所や厚生局との手続き
上記はあくまでも一例に過ぎず、実際にはさらに多くの業務が存在すると思われます。
医師本来の仕事をしつつこれだけの業務も行うことになる点は、大きなデメリットだと言わざるを得ません。
デメリット④精神的な負担が増える
収入の不安定さや責任範囲の広さ、そして業務の多さなどが合わさり、精神的な負担が増すことも予想されます。
何が負担となるかは人によって異なりますが、たとえば以下のような心配事や悩み事がついてまわると考えられます。
開業医に伴う心配事や悩み事
- 開業時に借り入れた借金が返済できるかどうかを見通せていない
- 来院する患者さんの数が増えない
- 自分しか働けないという状況で休めない
- 雇ったスタッフとの人間関係がうまくいかない
- 経営上のさまざまな課題に対処できていない
開業医を目指すのであれば、こうした精神的な負担がかかることをある程度覚悟しなくてはなりません。
開業医に必要とされるもの
前項で解説したデメリットを受け止めて、開業医として成功するためには、医師自身が以下の要素を備えておく必要があります。
専門医としてのスキル
開業医は、その病院・診療所の院長として責任を持って患者さんの診療にあたることを、何よりも重視しなくてはなりません。
そしてそのためには、医師としての十分なスキルがなくてはならないのです。
特に、特定の領域に特化した“専門医”としてのスキルは、地域に根づいた質の高い医療サービスを提供するうえで非常に有用です。
他院との差別化も叶うため、経営上のアドバンテージにもなりえます。
経営者としての意識
広報活動やスタッフのマネジメントなどを徹底し、自身の病院の売上向上を図るという経営者としての意識も、開業医には欠かせません。
よって開業医を目指す際には、医療に関するスキルだけではなく、マーケティングや経理、人事、労務などについての知識も並行して身につけていく必要があります。
1人の医師ではなく病院の責任者であることを自覚したうえで、多種多様な業務をこなせるようにしましょう。
資金力
医師、そして経営者としてのスキルが十分であっても、資金がなければ開業医として成功を収めることは叶わないでしょう。
よって、資金力も非常に重要な要素となります。
融資を利用して資金を調達することも可能ですが、その際もある程度の自己資金は必要です。
そのため、開業医を目指すのであれば、事前に最低でも数百万円は資金を準備しておきたいところです。
資金については以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ合わせてご覧ください。
関連記事:クリニックの開業に必要な資金はいくら?診療科目ごとに解説
開業医になる年齢
一般的には、40歳前後に勤務医から開業医になるケースが多くみられます。
しかし近年は、医療業界の情勢変化や働き方の多様化などの影響もあり、開業医になる際の年齢層が幅広くなりつつあります。
実際、早ければ30代前半から独立する人もいれば、60代直前になって開業医になる人もいるため、年齢はそこまで重要な指標ではないといえるでしょう。
開業医になるためのステップ
医師としての十分な経験を積み、資金も調達できたあとは、以下のステップを踏んで開業を目指しましょう。
開業医になるまでのステップ
- 物件を探す
- 必要な設備を調達する
- スタッフを採用する
- 医師会に加入する
- 開業する
物件を探す際は、最寄り駅との距離や駐車場の有無といった、立地条件を入念に検討したいところです。
アクセスの良し悪しは、病院運営の成否に大きく関わる部分であるためです。
また、開業する前の段階で、新しく病院ができることを近隣住民に宣伝しておくとよいでしょう。
ホームページやSNSなど、Web媒体でのアピールにも力を入れられるとより効果的です。
開業医として成功するには
最後に、開業医として成功を収めるための3つのポイントを解説します。
広告を活用する
患者さんに来てもらえなければ、病院の経営を軌道に乗せることはできません。
そのため、チラシの配布や看板の設置、地域紙への広告出稿などで、自院の存在を周知していきましょう。
また、ホームページやSNSで、自院の普段の様子や最新の医療情報を発信していくことも大切です。
病院の雰囲気が伝われば、初診の患者さんでも来院しやすくなるはずです。
連携を強化する
患者数を増やす、という観点においては、ほかの病院との連携を強化することも重要な取り組みです。
他院では治療が難しい患者さんへ自院を紹介してもらう、また自院から他院へと患者を紹介する、という体制を構築することで双方がメリットを享受できます。
また、治療方法の選択肢が増えるので、患者さんにとっても良い取り組みであるといえるでしょう。
開業コンサルタントを活用する
医師としての業務や研究などで時間がかかり、開業に必要な準備にまで手が回せないということも少なくありません。
そのような場合に活用したいのが、医師のための開業コンサルタントです。
物件の選定や開業エリアの調査、医療機器の選定、広報活動など、開業に際して必要な対応の多くを任せることができます。
なお、実際にサポートを受けられる範囲は業者によって異なります。
ホームページや口コミを事前にチェックして、自身に合った開業コンサルタントを選びましょう。
開業医には、医師としての経験と経営者としてのスキルの両方が求められる
今回は、開業医が得られるやりがいや、メリット・デメリットを中心に解説しました。
開業医には、病院運営に関わるほとんどのことを自身で対応できるという、勤務医にはないやりがいが存在します。
しかし、その分伴う責任は大きくなるうえに、医師としてのスキル以外にもさまざまな知見を身につけなくてはなりません。
開業医を目指す際は、この点をきちんと理解しておきましょう。
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