開業医を目指す際は、「なぜ自分は開業したいのか?」を掘り下げることが重要となります。
なぜなら、開業理由が明確になればクリニックの方向性も自然と定まるためです。
しかし、開業するかどうかまだ迷っており、その理由も自分のなかで定まっていない、という方もいらっしゃるでしょう。
そこで本記事では、医師が開業を考える代表的な理由をはじめ、開業に向けての考えを整理するうえで参考となる情報を紹介していきます。
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医師が開業を考える理由とは?
医師が開業を考える理由はさまざまですが、よくあるものとしては以下の3つが挙げられます。
もしまだご自身のなかの方向性が定まっていないのであれば、これらの理由を参考に考えを整理してみてください。
医師が開業を考える理由とは?
- 自身が理想とする医療を実現させるため
- 新たな挑戦にやりがいを見いだすため
- 労働環境を改善するため
自身が理想とする医療を実現させるため
「自身が理想とする医療を実現したい」という想いから、開業を決断する方は多くいらっしゃいます。
2009年のデータですが、社団法人日本医師会が発表したアンケート調査でも、新規開業の理由としてもっとも多かったのは「自らの理想の医療を追求するため」(42.4%)でした。
勤務医として働いている限りは、基本的には組織の掲げる診療方針に従う必要があります。
しかしそのような環境下では、患者さんとの接し方や診療方針について、組織とご自身の考えが合わず、ジレンマを感じることも少なくありません。
ご自身のクリニックを開業すれば、診療方針や導入する機器の選定などを自由に決められるようになり、そういったジレンマを感じることもなくなります。
「理想とする医療を提供する」というやりがいを追い求める方にとっては、開業が最適な選択肢となりえるのです。
参照元:社団法人日本医師会「開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査p5」
新たな挑戦にやりがいを見いだすため
医師として活躍するだけではなく、クリニック経営という新しい領域にチャレンジしたい、と考えて開業する方も少なくありません。
クリニックの経営戦略や診療方針、さらにマーケティング戦略や採用活動の方針などをすべて自由に決められるというのは、勤務医では感じられないやりがいです。
また、特定の地域にクリニックを開業して、そこに住む方々の医療そして生活を支える、という想いから開業医を目指す方もいらっしゃいます。
どちらのケースも、1人の患者さんを見るだけにとどまらず、より大きなことに挑戦してやりがいを得ようとする考えが背景にあるといえます。
労働環境を改善するため
労働環境を改善したいというのも、代表的な開業理由として挙げられます。
勤務医として働いていると、外来業務や当直、オンコール、病棟管理などで、長時間労働や不規則な勤務が続くことが珍しくありません。
このような働き方がいつまでも続くと、ワークライフバランスを確保できず、心身ともに大きな負担がかかってしまうでしょう。
一方で、開業医は診療時間や休診日などを自身の裁量で決められるので、働き方を調整すればプライベートの時間を確保できます。
勤務医としての働き方に限界を感じている方は、この点を魅力に感じて開業を検討し始めるというわけです。
開業医の平均年収は?
独立しご自身のクリニックを開業した場合は、そのクリニックの損益差額が年収となります。
厚生労働省が令和7年に実施した調査によると、個人で開設している一般診療所(青色申告者を含む)の平均損益差額は約2,631万円です。
これ対して、勤務医の平均年収は約1,484万円となっており、開業医の年収と比較すると6割未満にとどまっていることがわかります。
この数字だけを見ると、開業医のほうが高収入であるように思えます。
しかし、開業医の年収は“給料”ではなく“損益差額”であり、勤務医の年収とは性質が異なる点に注意しましょう。
たとえば、開業のために借り入れた借金の返済金や、将来の老朽化に備えた修繕のための準備金などは、上記の損益差額内から捻出しなくてはなりません。
クリニック経営がうまくいっていない場合には、平均を下回る年収になる可能性もあります。
つまり、開業医になったからとって必ずしも年収が大きく増えるとは限らないのです。
もちろん、クリニックの経営が軌道に乗れば平均以上の年収を得ることも可能です。
開業前のリサーチや集患施策などを徹底し、クリニック経営を安定化させることが、開業医として欠かせない対応だといえます。
参照元:厚生労働省「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告p314,p625」
参照元:厚生労働省「「勤務医の給料」と「開業医の収支差額」について」
【年代別】医師が開業するメリット・デメリット
開業するなら早いほうが良いのか、それとも経験を積んでから挑戦するべきか、といったポイントで悩まれている方も多いでしょう。
そこで本項では、30代・40代・50代と年代を分けて、開業する際のメリット・デメリットをまとめていきます。
【年代別】医師が開業するメリット・デメリット
- 30代で開業する場合
- 40代で開業する場合
- 50代で開業する場合
30代で開業する場合
30代は比較的年齢が若いために融資の審査が通りやすく、自己資金を十分に準備できなくともクリニックを開業できる可能性があります。
また年齢的な体力の余裕があるので、クリニック経営が軌道に乗るまでの多忙な時期も乗り越えらえるでしょう。
しかし、30代はまだ医師としての経験を十分に積めていない時期であるため、患者さんやスタッフから信頼を得るのに時間を要するかもしれません。
医療業界における人脈形成も十分にできておらず、クリニック経営で問題が生じた際に頼れる相手がいない、という状況になることも考えられます。
40代で開業する場合
40代は、医師としての経験も積めているうえに、自己資金も十分に準備できていることが多いため、開業に最適な年代とされています。
40代前半であれば借入金の返済期間も10~20年と長く、金融機関からの融資を受けられる可能性も高いと考えられます。
ただし、40代は育児や介護などで、ライフステージの変化がピークとなる時期でもあることに留意しましょう。
開業前後の多忙な時期には、家庭と仕事を両立することが難しくなるかもしれません。
また、40代後半になると医師として働ける期間も短くなってくるので、借金の返済が将来的に困難となるおそれもあります。
50代で開業する場合
50代の医師ともなれば、技術力も確かで現場での経験も豊富であるため、患者さんからの信頼を得やすいと考えられます。
また、医療業界にも幅広い人脈を持っていると思われるので、クリニック経営でトラブルが発生した際にも、すぐにサポートしてもらえるかもしれません。
そうしたメリットがある一方で、個人差もありますが、30代・40代と比べると体力的なハードルはどうしても高いと言わざるを得ないでしょう。
また、医師として働ける期間も短いので融資の審査も厳しくなります。
そのため、多額の初期費用がかかるような大規模なクリニックは、開業するのが難しいといえます。
クリニックを開業するまでの手順
クリニックを実際に開業するまでには、以下の9つの対応が必要となります。
それぞれの詳細を順に解説します。
クリニックを開業するまでの手順
- クリニックの診療方針を決める
- 開業地や物件の種類を選定する
- 事業計画を策定する
- 資金を調達する
- 内装工事を依頼する
- 医療機器を準備する
- スタッフの採用活動を行う
- 集患のための広告活動に取り組む
- 各種行政手続きを済ませる
①クリニックの診療方針を決める
まずは、開業するクリニックの診療方針を定めましょう。
「誰に・どこで・どのような医療を提供するのか」という方針が決まれば、開業地の選定や事業計画の策定もスムーズに進められるようになります。
クリニックの診療方針を考える際は、そもそもなぜ開業しようと思ったのかを、ご自身のなかでしっかりと掘り下げることが大切です。
「地域密着の医療を提供したい」「自身の専門性を活かせるクリニックを開きたい」といった想いを改めて明確化すれば、診療の方向性も自然と定まるでしょう。
②開業地や物件の種類を選定する
診療方針が定まったら、次はクリニックを開業する場所や物件の選定を行います。
クリニックの開業地は集客率に直結する要素であるうえに、一度決定したら後戻りできない部分でもあるため、慎重に検討を進めたいところです。
主要な駅やバス停からの距離、また近隣の競合クリニックの数などを入念に調査して、最適な開業地を選びましょう。
上記のほか、開業する物件の種類も決める必要があります。
戸建てを新築するのか、またはビルやクリニックモールのテナントとして入るのかを、自院の診療方針に合わせて選択します。
物件の種類で悩まれている方に特におすすめしたいのが、クリニックモールです。
複数のクリニックや調剤薬局が1か所に集中しているクリニックモールは人が集まりやすく、開業直後でも多くの患者さんに来院してもらえる可能性があります。
ほかの診療科との連携も容易なので、自院で対応できない患者さんを他院に紹介したり、反対に患者さんを紹介してもらったりすることも可能です。
効率的な集患ができるクリニックモールで開業すれば、クリニック経営をスムーズに軌道に乗せられるでしょう。
③事業計画を策定する
開業地の選定後は、具体的な事業計画を策定していきます。
ここまでに整理した情報をもとに、クリニック開業に必要な資金や開業後の収支などを試算し、自院がどれだけの利益を得ることになるのかをまとめていきます。
事業計画の内容次第で融資を受けられるかどうかも決まるので、収支の内訳を入念に整理したうえで、具体的かつ現実的な計画を立てることを徹底しましょう。
④資金を調達する
クリニック開業の際の資金調達方法は、融資を利用するのが一般的です。
開業資金の7~8割程度を融資によって賄い、残りの2~3割は自己資金で確保しておくのが望ましいでしょう。
また融資とは別に、地方自治体や国が提供している補助金・助成金を利用するのも一つの手です。
融資と異なり原則返済の必要がないため、将来的な負担少なく開業資金を調達できます。
⑤内装工事を依頼する
資金を調達できたら、次はいよいよ内装工事を依頼します。
内装を検討する際は、自院の診療科やターゲットとする患者層に合わせたデザイン・設備を検討することが大切です。
たとえば、外科・整形外科なら車椅子や杖を使っている方のために院内の段差を極力なくす、また産婦人科ならパウダールームを設置する、といったポイントが挙げられます。
ただし、上記の対応は、医療法や建築基準法、消防法といった各種法令に準拠することが前提にあることを忘れてはなりません。
法令違反があるとクリニックの開設許可が下りないおそれがあるので、工事を依頼する前に各種法令への対応状況を必ずチェックしておきましょう。
⑥医療機器を準備する
内装工事の依頼とあわせて、自院の診療科目や診療方針に合った医療機器の選定も進めます。
この際、機能面だけをチェックするのではなく、長期的な費用対効果も考慮することを意識しましょう。
新品ではなく中古の機器を購入する、またリース契約で導入するなどして、可能な範囲でコストを削減できると理想的です。
⑦スタッフの採用活動を行う
ご自身だけですべての業務を一手に引き受けるのは現実的ではないので、受付や会計、また診療のサポートを任せられるスタッフを雇うのが一般的です。
採用活動を行う際は、スキルや経験はもちろん、人と接する際の態度や人柄なども確認しましょう。
スタッフの対応の質が良ければ、自院に対する患者さんからの評判も向上します。
また、ご自身が掲げる診療方針に理解を示してくれるかどうかも、採用活動の際には注視したいところです。
医療に対する考え方が合うスタッフとなら良好な人間関係を構築できる可能性が高く、後々トラブルが発生する可能性も低いでしょう。
⑧集患のための広告活動に取り組む
開業直後から患者さんに来院してもらうには、開業の1~3か月ほど前から広告活動に取り組んでおく必要があります。
近隣の住民に対するアプローチ方法としては、駅の看板への出稿やチラシ配りなどが効果的です。
さらに、ホームページやSNSなどでの情報発信にも力を入れれば、地域外の患者さんにも自院を認知してもらえるでしょう。
複数の広告手法を組み合わせて、より幅広い層にアプローチすることが大切です。
⑨各種行政手続きを済ませる
ここまでの対応が完了してクリニックを開業できる状態になれば、最後に各種行政手続き済ませます。
主に必要となるのは、保健所への診療所開設届の提出と、厚生局への保険医療機関指定申請書の提出です。
診療所開設届の提出に際しては、現地での審査が必要になることも把握しておきましょう。この審査で問題が指摘されると、後日の再審査に通るまでは診療を開始できません。
こういった予定外の対応で準備が遅れることもあるので、開業までのスケジュールには余裕を持たせておくことをおすすめします。
クリニック開業を成功させるためのポイント
クリニック開業に必要な手順とあわせて、その際に意識したいポイントも把握しておきたいところです。
以下の4つのポイントを押さえたうえで開業準備を進めれば、クリニック経営で好調なスタートを切れるでしょう。
医師の開業を成功させるためのポイント
- 専門的な知識を持つアドバイザーに相談する
- 開業予定地域のニーズを把握する
- 専門性を追求して他院との差別化を図る
- スタッフの採用後の研修を充実させる
専門的な知識を持つアドバイザーに相談する
ここまでに紹介した作業や手続きをご自身だけで対応することも可能ですが、クリニック開業支援サービスを利用すれば、よりスムーズに開業準備を進められます。
特に、開業地の選定や経営戦略の立案といった、医療分野以外の知見が求められる場面では、専門家のアドバイスが大きな助けとなるでしょう。
広報活動や人材採用なども任せられるので、ご自身は医師としての本業に集中できるようにもなります。
また、開業後のフォローまで行ってくれるサービスを選べば、何かトラブルが発生した際にもすぐに相談が可能です。
クリニック開業に伴うリスクを低減し、安定した経営を実現したいのであれば、クリニック開業支援サービスの利用を検討してみてはいかがでしょうか。
開業予定地域のニーズを把握する
開業地の選定を行う際には、地域全体にどのようなニーズがあるのかを把握することが重要となります。
そこで実施したいのが“診療圏調査”です。
診療圏調査とは、クリニック開業前に実施する地域の市場調査のことです。
具体的には、住民の年齢層や性別、世帯構成、また主要な交通手段や競合クリニックの数・診療内容などを詳細に分析します。
この調査を行うことで、地域住民の医療におけるニーズが明確になり、さらに、ご自身のクリニックを開業した際の集患率の目途も立てられるようになります。
自院の診療科や提供する医療サービスが必要とされている地域で開業すれば、生活に欠かせないクリニックとしての地位を確立できるでしょう。
専門性を追求して他院との差別化を図る
患者さんに選ばれるクリニックになるには、他院との差別化を図ることも欠かせません。
そのためには、ご自身がそれまでに学んできた専門分野の掘り下げを行い、他院にはない強みとして患者さんに提示していく必要があります。
他院では治療できない難病にも対応できる、また身体の特定の部位に関して精通している、といった独自の強みがあれば、該当する患者さんの来院数が増えていくでしょう。
先述したニーズの把握とともに専門性も追求し、「通うならここがいい」と患者さんに思ってもらえるようなクリニックを目指すことが大切です。
スタッフの採用後の研修を充実させる
患者さんに対するスタッフの言動はクリニック全体の評価に大きく影響するので、接遇マナーについての研修を事前にしっかりと行いましょう。
上記とあわせて、自院の経営理念や診療方針に関する研修も実施しておきたいところです。
このクリニックが何を重視しているのか、またどのような診療を提供しているのかをスタッフがしっかりと把握していれば、質の高い医療サービスを提供できます。
また、ご自身とスタッフの目線を合わせることによって、チームとしての一体感も生まれて、人間関係のトラブルが生じるリスクも減らせます。
開業しようと思った理由を掘り下げて、クリニックの方向性を明確にすることが重要
開業医を目指すにあたっては、「なぜ開業しようと思ったのか」を掘り下げて、クリニックの方向性を明確化していきましょう。
そうすることで、開業地の選定や事業計画の策定など、開業に向けての準備をスムーズに進められるようになります。
また開業準備を進める際は、クリニック開業支援サービスを利用する、また開業予定地域のニーズを把握するといったポイントも意識してみてください。
「開業準備を自分だけで進められるだろうか……」と不安であれば、ぜひ一度マツキヨココカラの開業サポートにお声がけください。
診療圏調査や事業計画の策定、さらには開業後のフォローまでを一気通貫でサポートいたします。

