しかし、開業に関するノウハウがない状態では、意識するべきポイントを把握することもままならないでしょう。
そこで今回は、内科クリニックを開業する際に意識したい6つのポイント、さらに専門領域ごとの経営戦略を解説します。
独立後の滑り出しを順調にしたい方は、ぜひご一読ください。
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内科クリニックの現状
はじめに、内科クリニックの現状について把握しておきましょう。
厚生労働省の調査によると、内科を標榜するクリニックは2023年時点で64,747施設存在しています。
これは、クリニックの総数の約6割にも上るものです。
また、医師数でも内科は最多で、2022年時点で61,149人もの医師が内科医として従事しています。
次点の整形外科が22,506人であることを考えると、内科医の数がいかに多いかがわかるでしょう。
このように、内科クリニックには高い需要がある分、競合の数も非常に多いという現状があります。
安定したクリニック経営を実現するためには、その地域の生活やニーズをしっかりと調査したうえで、最適な戦略を考えていかなくてはなりません。
参照元:厚生労働省「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況 医療施設p5」
厚生労働省「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況 医師p8」
内科クリニックの開業を成功させるためのポイント
内科クリニックの経営を軌道に乗せるためには、具体的にどのようなポイントを意識すればよいのでしょうか?
ここでは、特に重視すべき6つのポイントを解説します。
内科クリニックの開業を成功させるためのポイント
- ポイント①コンセプトを明確化する
- ポイント②マーケティングを行う
- ポイント③近隣のクリニックと連携する
- ポイント④在宅医療にも対応する
- ポイント⑤土日祝日も診療時間を設ける
- ポイント⑥プライバシーや感染症対策に配慮する
クリニック開業を成功させるためのポイントについて詳しく知りたい方はこちら
関連記事:クリニックを開業するまでの流れと成功させるポイントを解説
ポイント①コンセプトを明確化する
内科クリニックを開業するうえでまず考えたいのが、自院のコンセプトです。
一般内科に絞って診療を行うのか、あるいは専門領域にまで進出するのか、といったクリニックの基本的な方針を決めなくてはなりません。
また、その際は開業する地域の特色も検討材料に入れる必要があります。
ほかにどのようなクリニックがあるのか、また住民には一人暮らしが多いのか家族が多いのか、といった要素が異なれば、目指すべきコンセプトも変わるためです。
これらの要素を検討したうえで具体的なコンセプトが定まれば、自然とターゲット層やマーケティングの方向性も決まるでしょう。
ポイント②マーケティングを行う
コンセプトが決まったとしても、肝心の患者さんが来なくては安定したクリニック経営は叶いません。
よって、集患につながるマーケティングも積極的に実施する必要があります。
マーケティングの方法にはさまざまな種類がありますが、クリニックの存在を周知する目的であれば、複数の方法を併用したいところです。
ホームページやSNSで広範囲に情報を発信しつつ、折り込みチラシや看板広告を用いて地域住民の認知度向上も図れれば、より効果的に患者さんを集められます。
くわえて、自院で対応可能な症状や検査など、独自性もアピールできるとなお理想的です。
ポイント③近隣のクリニックと連携する
周辺のクリニックは競合である一方で、自院では対応が難しい患者さんを任せられる連携先にもなりえます。
特に、CTやMRIといった高度医療機器を開業当初から設置できない場合は、それらを設置しているほかのクリニックと積極的に協力体制を構築しましょう。
治療方法の選択肢が増えるため、患者さんにとっても大きなメリットになります。
また、連携によって信頼関係を築くことができれば、自院に患者さんを紹介してもらえる可能性もあります。
ポイント④在宅医療にも対応する
高齢化の進む日本社会では、家に居ながら治療を受けられる在宅医療のニーズが今後ますます高まっていくと考えられます。
そのため、クリニック経営を安定させるための手段として、在宅医療への対応は非常に効果的だといえます。
また、在宅診療は訪問診療料が加算されて診療報酬が高くなるので、財政面の改善という観点でも有用です。
「在宅医療が必要な患者さんをどうやって見つければよいのか」とお悩みであれば、医療介護施設やケアマネージャーなどとの連携を強めましょう。
内科での診察が必要な患者さんがいれば、自院に紹介してもらえるかもしれません。
ポイント⑤土日祝日も診療時間を設ける
仕事の事情などで平日に受診するのが難しい方や、休日に急に体調を崩してしまった方のために、土日祝日の診療に対応するのも一案です。
「ここは自分の都合が合う時間で受診できる」と思ってもらえれば、それ以降も継続的に来院してくれる可能性が高まります。
ただし、休日のすべてを診療時間に充ててしまうと、自身やスタッフの負担が大きくなり、かえってクリニック経営に支障をきたしかねません。
土日のいずれかだけ、もしくは午前・午後のどちらかに絞るなどして、負担がかかり過ぎないように工夫しましょう。
ポイント⑥プライバシーや感染症対策に配慮する
患者さんのプライバシーや感染症対策を考慮して、待合室を広めに設計したり、複数の診察室を設けたりすることも大切です。
特に新型コロナウイルスが流行してからは、「クリニックで感染してしまうんじゃないか……」と不安に思う方が多くいらっしゃいます。
そのため、万全の体制で感染症対策を行い、またその旨を周知することが非常に効果的なアピールとなりえるのです。
また、内科では採尿を行うこともあるため、共用トイレとは別に広めの採尿用トイレを作っておくのもよいでしょう。
専門領域別の内科の経営戦略
内科のなかでも一部の専門領域に特化する場合は、その領域の診療内容や特色に合った経営戦略を立てなくてはなりません。
そこでここからは、内科の主要な専門領域ごとに、どのような経営戦略を考える必要があるのかを解説します。
内科の主要な専門領域
- 消化器内科
- 呼吸器内科
- 循環器内科
- 内分泌・糖尿病内科
- 脳神経内科
消化器内科
消化器内科では主に内視鏡検査を行うため、検査用のスペースや検査後の回復室のことを考慮したうえで物件を選ぶ必要があります。
また、近年は胃がんなどの早期発見を目的に内視鏡検査を受診する若年層が増えつつあるので、商業施設の近くにクリニックを構えるのも有用な戦略となりえます。
ただし一点、消化器内科は特に競合が多く、内視鏡検査だけで経営を安定させるのは難しい、という点には留意しておきましょう。
上部だけではなく下部内視鏡検査にも注力する、あるいはほかの内科領域もカバーするなどして、他院との差別化を図ることが大切です。
呼吸器内科
呼吸器内科は、どのような層を主要な診察対象とするかで最適な戦略が異なってきます。
たとえば、睡眠時無呼吸症候群や禁煙などで悩むビジネスパーソンにアプローチする場合は、オフィス街で開業するのがベストです。
息切れや喘息など、呼吸器系全般の不調を対象に診察を行うのであれば、住宅街や駅の近くなど、だれでも通いやすい場所にクリニックを構えるのがよいでしょう。
また、呼吸器内科は特に感染症対策の重要性が高い領域でもあります。
そのため、先ほど感染症対策の項で述べた対応を積極的に実施しましょう。
循環器内科
循環器内科を受診する患者さんには高齢者が多い傾向にあるため、住宅街の近くや駅から歩いてすぐの立地に開業するのがおすすめです。
また、受付にステッキホルダーを備えたり、段差を極力減らしてスロープを設置したりするなど、バリアフリーを意識した院内設計も行いましょう。
マーケティングに関しては、患者さんの多くが高齢者であることを考慮して、視認性の高い場所への看板設置や、チラシなどを活用するのが効果的です。
しかし、近年は年齢に関係なくスマートフォンが普及しているうえに、患者さんの同伴者としてご家族が来院することも少なくありません。
よって、Web広告でも十分な集患効果を見込める可能性があります。
内分泌・糖尿病内科
勤務医時代に受け持っていた患者さんを自院に連れていく、というのが内分泌・糖尿病内科で独立する際のセオリーの一つです。
しかし、なんの断りもなく患者さんを連れ出すと、かつての勤務先との関係値が悪化してしまいます。
良好な関係を維持したまま独立するためにも、患者さんを連れ出す際は必ず事前に相談しておきましょう。
患者さんの連れ出しが難しい場合は、内科の競合が多いエリアに進出するのは可能な限り避けたいところです。
ただし同じ内科であっても、それが内分泌・糖尿病内科を専門外とするクリニックであれば、むしろ好条件であるといえるでしょう。
協力関係を構築すれば、対応が難しい患者さんを紹介してもらえる可能性があるためです。
脳神経内科
脳神経内科では、患者さんがリハビリできるだけの十分なスペースを備えた物件を選ぶことが非常に重要となります。
くわえて、循環器内科と同様にバリアフリーにも意識を向けなくてはなりません。
また、患者さんのリハビリをサポートするための、専門スタッフやリハビリ器具も必要不可欠です。
開業当初から万全の環境を整備できれば理想的ですが、資金の問題などで難しいのであれば、優先度を決めて高い順に準備することをおすすめします。
なお、脳神経内科の診療内容は、まだ十分に認知されているとはいえない状況にあります。
自院も含めて認知度を向上させるためにも、ホームページやSNSなどのWeb媒体で、診療内容や院内の普段の様子を積極的に発信していきましょう。
内科クリニックの開業に必要な資金
内科クリニックを開業する際には、実際どれだけの資金が必要になるのでしょうか?
開業する地域やカバーする専門領域などによって差異は出ますが、一般的には5,000万~8,000万円程度が目安になると考えられています。
なお、上記の額は設備資金と運転資金を合算したものです。
それぞれでいくらかかるのか、またさらに詳細な内訳はケースバイケースで異なるため、そちらも把握しておきましょう。
設備資金
設備資金は、クリニックの内装工事費用や医療機器の調達費用などをまとめたものです。
具体的な内訳は以下の通りです。
設備資金の内訳の一例
- 物件の購入費、または賃料
- 物件を借りる場合の保証金
- クリニックの内装のデザイン費用や工事費用
- 各種医療機器の調達費用
- レジスターやコピー機などのその他設備の調達費用
- 採用や研修、事前のマーケティングなどにかかる諸経費
上記のなかでも特に費用を要するのがデザイン費用や工事費用であり、規模や坪単価にもよりますが、2,800万~5,600万円ほど必要となります。
また、消化器内科など大型の設備が必要となる領域では、医療機器の調達費用も相当な額に上ります。
クリニックの内装や設備にどこまでこだわるかによってこれらの費用感は変わってくるので、捻出可能な資金と照らし合わせて慎重に検討したいところです。
運転資金
対して、以下に挙げたような開業後に継続的に発生する費用は運転資金となります。
運転資金の内訳の一例
- (賃貸の場合)開業後に継続して発生する家賃
- 開業後の水道光熱費
- 従業員の給与
- 福利厚生費
- 設備のリース代
- 薬剤費や消耗品費
- 医師会費用
開業資金に対する割合でいえば運転資金は10%ほどであり、設備資金と比べれば僅かです。
しかし、開業後しばらくの経営が安定しない期間には、この資金がクリニック経営の土台を支えることになるので、その重要性の高さは設備資金にも劣らないといえます。
診療内容や経営方針を考慮したうえで、必要十分な額の運転資金を準備することが大切です。
クリニック開業にかかる資金について詳しく知りたい方はこちら
関連記事:クリニックの開業に必要な資金はいくら?診療科目ごとに解説
内科医の平均年収
最後に、開業した内科医の平均年収をお伝えします。
令和5年の厚生労働省の調査によると、個人クリニックの内科の損益差額は平均して約2,920万円となっています。
ここからさらに、設備の修繕費やそのほかの内部費用への補填が発生するため、いわゆる年収としては1,600万~1,800万円程度になるものと考えておきましょう。
ただし、上記の額はあくまでも目安に過ぎません。
開業する場所やターゲット層、提供する診療内容次第で平均年収を上回る、あるいは下回ることもありえます。
だからこそ、ここまでに説明してきたポイントや経営戦略を開業時に意識することが、何よりも重要となるのです。
参照元:厚生労働省「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)p496」
コンセプトの明確化や積極的なマーケティングが、内科クリニックの成功につながる
今回は、内科クリニックの開業を成功に導くための6つのポイント、そして専門領域ごとの経営戦略を解説しました。
競合の数が多い内科クリニックでは、いかにして他院との差別化を図るかが非常に重要となります。
そのためにも、コンセプトの明確化やマーケティングの徹底、そして専門領域ごとの経営戦略を意識した開業準備を行いましょう。
ご自身だけでそれらのポイントを徹底するのが難しそうであれば、ぜひマツキヨココカラが提供するクリニック開業サポートにご相談ください。
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